腰痛は力仕事をおこなう人だけではなく、座っている時間が長いデスクワーカーにも多くみられます。
これは人間の骨格構造の問題で、私たちの体はデスクワークもやればできないことはないというだけで、長時間座っていることに適している訳ではないからです。
そこでこの記事では、デスクワークによって腰が痛くなる原因と改善方法について、骨格の視点から解説をしていきます。
腰の負担を軽減するための機構
長時間座っていることで腰が痛くなるのは、背骨の正常な弯曲が崩れるからです。
人間の背骨を横から見ると、なだらかなS字を描いてカーブしています。
これは背骨に掛かる負担や衝撃を吸収するためのクッション機構で、腰の部分に注目してみるとお腹の方に前弯しているのが正しい形です。
人間は頭や内臓といった重たいものが上半身に集まっているので、体重の6~7割は上半身に偏っていると言われていて、その重量を受け止めているのが腰です。
そのため、腰にはもともと負担が掛かりやすくなっているのですが、その負担を軽減しているのが背骨のカーブで、バネのように適度にたわみながら腰に掛かる負担を吸収しています。
そこで背骨のカーブが崩れてしまうと、腰に掛かる負担を支えきれなくなり、腰痛の症状が出てくるようになります。
姿勢によって腰の負担は変わる
腰のカーブはいつも一定の形状をしているわけではなく、姿勢や動作に合わせて常に変化しています。
これは座った場合も例外ではありません。
たとえば、椅子に座ると骨盤が後ろに倒れるので、その上に乗っている腰の骨も骨盤に合わせて後ろに倒れていきます。
腰の骨が後ろに倒れてしまうと、前弯がなくなってまっすぐになってしまうので、バネが伸びきって突っ張った棒のような状態になります。
それでも腰は上半身の重みを支えなければなりませんから、クッションがなくなった状態で長時間座っていると、関節や椎間板に掛かる負担が大きくなるので、すぐに疲労が溜まって腰が痛くなってきます。
座った時に腰に掛かる負担
意外に思われるかもしれませんが、腰に掛かる負担のみで考えた場合は、立っているときよりも座っているときの方が大きくなります。
これには二つの理由があります。
ひとつは先ほど書いたように、座ることで骨盤が後ろに倒れ、腰のカーブがなくなるからです。
もうひとつは、座ると下半身の補助がなくなるからです。立っているときは腰だけではなく、両足も一緒になって体重を支えるのを手伝ってくれています。
しかし、座ってしまうと足の補助がなくなるので、腰だけで上半身の重みを支えなければなりません。
スウェーデン出身の整形外科医ナッケムソン氏が、姿勢ごとに腰の椎間板に掛かる圧力を数値化した論文を参考にすると、まっすぐ立った状態に比べて、座った状態では腰に掛かる負担が1.4倍に増加するそうです。
また、座った状態で前傾姿勢になると、腰に掛かる負担はさらに増えて1.85倍になりますから、立っているときの二倍弱の負担が腰に掛かることになります。
デスクワークでパソコンに向かっていると、はじめは背筋を伸ばすように意識をしていても、疲れてくるとついつい前傾姿勢になってしまいますので、その状態で長時間座っているのは腰にとって大きな負担になるということですね。
腹筋が落ちて腰が不安定になる
座っている姿勢は腹筋が弛緩してしまうことも、腰の負担が増える要因になります。
体重を支えているのは背骨ですが、その背骨を支えているのは腹筋などに代表される体幹の筋肉です。
とくに腹筋にはお腹の中の圧力を高める働きがあります。
お腹の中の圧力のことを腹圧というのですが、腹圧を高めることで内臓を正しい位置で固定し、そのさらに奥にある腰の骨も固定しています。
しかし、座った姿勢は腹筋が弛緩してしまうため、腹圧が低下してしまいます。
デスクワークなどで座った状態で一日の大半を過ごしていると、腹筋が弛緩している時間が長くなりすぎて筋力が落ちてしまい、今度は腹圧を上げようと思っても上げられなくなってしまいます。
腹圧を上げられないと、腰の固定力が弱くなるので不安定になり、さらに腰に掛かる負担が増えることになります。
腰のカーブが戻らなくなる
腹筋にはまだ仕事があって、腰のカーブを作っているのも、じつはお腹の奥にある筋肉です。
具体的には腸腰筋といって、腰の骨から太ももの骨にまたがって付着している筋肉です。この腸腰筋が適度な張力を維持して背骨を引っ張ることで、腰が弯曲してカーブが作られます。
似たようなもので例えると、弓を引っ張る弦をイメージしてもらったら分かりやすいかもしれません。
そして、例のごとく一日の大半を座って過ごしていると、腸腰筋が弛緩している時間が長くなりすぎて筋力が落ちてしまい、カーブを作るだけの張力を維持できなくなります。
腸腰筋の筋力が足りなくなると、立ち上がっても腰のカーブを作ることができなくなるので、背骨がまっすぐになったまま戻らなくなります。
腰のカーブがなくなったまま戻らなくなると、座っている時間以外も腰に掛かる負担が増えたままになりますから、慢性的な腰痛に悩まされることになります。
デスクワーカーの腰痛を改善する方法
このような長時間座っていることによる腰痛は、二つの方法で改善することができます。
定期的に運動をして腹筋を強化する
まずは定期的に運動をする習慣を身につけて、落ちてしまった腹筋を取り戻すことでしょう。
その際も、はじめからきつい運動をしても続かないので、無理なく続けられる低負荷の運動がよいです。
当院でおすすめしているのは、30分くらいのウォーキングを一週間に二回です。
ウォーキングは負荷が低くて怪我のリスクが少ない上に、腹圧を上げるための筋肉と、腰のカーブを作る腸腰筋を同時に刺激することができるからです。
腹圧を上げるのは、横隔膜、腹横筋、骨盤底筋、多裂筋といった筋肉なのですが、これらは呼吸の際にも使う筋肉なので、歩くときに腹式呼吸を意識することで強化できます。
また、腰のカーブを作る腸腰筋は、太ももを引き上げる際にも使いますから、しっかりと足を上げて歩くことで強化されます。
定期的に運動をして、緩みっぱなしだった腹筋群の筋力が戻ってくれば、腰の安定感が増してカーブもついてくるので、腰痛も改善していくでしょう。
矯正をして背骨のカーブを戻す
もうひとつは骨格の歪みを矯正して、なくなってしまった腰のカーブを回復させることです。
基本的に、骨格の歪みは矯正をする以外に戻す方法がありませんから、運動をしているのに腰痛がなかなか改善しない場合は、いちど詳しく腰の状態を調べた方がよいです。
長年のデスクワークで腰のカーブがなくなった状態が続いていると、その形で筋肉や靭帯などの軟部組織が固まってしまって、運動をしたくらいでは戻らなくなっている可能性が高いからです。
その際は、矯正をすることで腰のカーブを回復させることができます。
腰のカーブが回復すれば、再び体重を支えることができるようになりますから、慢性的な腰痛も改善していきます。
座りっぱなしの腰痛まとめ
デスクワーカーに腰痛持ちが多いのは、やればできないこともないというだけで、そもそも人間の体は長時間座っていることに適していないからです。
とくに車通勤で仕事がデスクワークなんてことになると、一日中、背骨のカーブがなくなった状態で腹筋が弛緩したままになりますから、腰が痛くなるのも当然です。
とはいえ、現代でそんなことを言っていると、仕事がなくなってしまうかもしれません。現実的な妥協点として、習慣的に運動をして腰のコンディションを改善するようにしましょう。
もし、それでも腰が痛いという場合は当院にご相談くだされば、骨格の視点から問題解決のお手伝いをさせていただくことが可能です。