ぎっくり腰は日常の何気ない動作で起こる急性の腰痛です。
圧迫骨折などを併発していなければ、これといった治療をしなくても、通常は一ヶ月以内に痛みは引いてくるでしょう。
しかし、気をつけなければいけないのは、ぎっくり腰の急激な痛みはあくまでも表面的な症状だということです。
原因をそのままにしていると腰痛が慢性化してしまうだけでなく、腰椎椎間板ヘルニアや変形性腰椎症の発症につながる可能性もありますので、早めに処置をするようにしてください。
ぎっくり腰とは
ぎっくり腰は正式名称を「急性腰痛症」といって、不意に腰を屈めたり、体を捻じったりした際に起こる急性の腰痛です。
軽度であれば日常生活に少し支障が出る程度ですが、重度の症状になると腰を伸ばすだけでも冷や汗をかき、トイレに座ることもままならなくなります。
仮に発症してしまった場合は、患部をアイシングすることと、安静にしていると症状が長引くので、可能な範囲でいつも通りの生活をするようにしてください。
ただし、注意しなければならないのは、ぎっくり腰の激痛が治まったとしても、それは急性の関節炎が鎮まっただけで、根本的な原因はそのままだということです。
原因がそのまま残っていれば、負担を掛ける度にぎっくり腰を再発してしまいますし、冒頭に書いたように、腰椎椎間板ヘルニアや変形性腰椎症の発症にもつながります。
目の前の症状だけでなく未来のご自身の健康のことも考えて、なるべく早く根本的な原因の解消をおこなうようにしましょう。
なぜぎっくり腰になるのか?
ぎっくり腰を発症する原因の多くは骨格の歪みです。
これは腰椎の機能的な話になるのですが、人間は直立二足歩行で活動をしているため、横になって寝ている時間以外は、つねに上半身の重みが腰に掛かり続けることになります。
また、歩くときは背骨を地面に対して垂直に立てた状態になりますから、着地の際の衝撃が足底から背骨を伝わって脳まで届きます。
これらの負担や衝撃に対処しているのが腰椎です。
腰の骨を横から見ると、お腹の方に前弯しているのが正常な状態で、このカーブが腰に掛かる上半身の重みを分散したり、歩行時などに背骨に加わる衝撃を吸収するショックアブソーバーとして働いています。
一方、ぎっくり腰を起こしやすい方の腰椎は、弯曲が少なくなり直線に近くなっていることが多いです。
骨格が歪んで腰椎の前弯が少なくなると、腰に掛かる荷重や衝撃を吸収しきれなくなるため、関節や椎間板への負担が大幅に増加するようになります。
ぎっくり腰を発症する動作
ぎっくり腰は原因もなく急に発症するのではなく、骨格の歪みによって慢性的に負担が掛かっていたところに、不用意な動作でダメ押しをしてしまうために起こります。
とくに注意が必要な姿勢は、洗面台などでの中腰の体勢、床のものを拾うために大きく腰を曲げる動作などでしょう。
腰に掛かる負担は一定ではなく、姿勢や動作によって変動します。
たとえば体を前傾させると、腰椎にまっすぐ荷重が掛からなくなるため、関節や椎間板への負担が大きくなります。
どれくらい変わるのかというと、まっすぐ立った状態を基準にすると、腰を曲げて前傾姿勢になると1.5倍、その姿勢で荷物を持つと2.2倍にまで腰への負担が増えると言われています。
つまり、ぎっくり腰が日常の何気ない動作で発症するのも、骨格の歪みによって慢性的に腰に負担が掛かっている状態で、体を不意に曲げてしまったことで瞬間的に関節への負担が高まって捻挫を起こすからです。
したがって、急性腰痛症とは言うものの、元から悪かった場所にダメ押しの負担が掛かり、腰に捻挫を起こした状態、というのが正確な理解でしょう。
捻挫とは
「捻挫」|日本整形外科学会
関節に力が加わっておこるケガのうち、骨折や脱臼を除いたもの、つまりX線(レントゲン)で異常がない関節のケガは捻挫という診断になります。
したがって捻挫とはX線でうつらない部分のケガ、ということになります。
なお、腰椎には初めから回旋方向の可動性がほとんどないため、腰を曲げながら体を捻じるような動作をすると、さらに関節や椎間板への負担が大きくなって捻挫を起こしやすくなります。
床に置いてある荷物を移動させる際などは、面倒でもしゃがんで腰を落とすようにして、腰に掛かる負担を軽減させるように意識しましょう。
ぎっくり腰がくせにならないために
このような視点から考えると、ぎっくり腰はくせになるというよりも、根本的には治っていないことが問題です。
ここで重要な考え方は、腰の痛みを取ることよりも、骨格の歪みを矯正して腰椎の機能を回復させることです。
腰椎の歪みを矯正して前弯が戻れば、再び腰に掛かる上半身の重みを分散したり、歩行時の衝撃を吸収したりできるようになるので、関節や椎間板へ掛かる負担も正常な範囲に戻ります。
腰に掛かる負担が正常な範囲に収まれば、日常生活動作で体を前傾させたとしても、関節に捻挫を起こすほどの力は掛からなくなりますから、ぎっくり腰を繰り返すこともなくなります。
関節や椎間板が健康な間に治療をしましょう
ぎっくり腰は痛みが引いたからといって安心せずに、早めに原因を取り除くようにしてください。
腰椎の前弯がない状態で日常生活を送っていると、関節や椎間板に掛かる負担が大きいので、骨の変形や椎間板の変性につながります。
ぎっくり腰の症状自体は一ヶ月も我慢すれば引いてくるかもしれませんが、骨の変形や椎間板の変性は不可逆ですから、いちど生じたものは回復しません。
何度もぎっくり腰を繰り返しているうちに、腰椎椎間板ヘルニアや変形性腰椎症など、慢性的な強い腰の痛みや足のしびれを出す疾患に移行することもあります。
また、骨の変形が進行して癒合してしまうと矯正はできませんので、悪化する骨格と腰の痛みを抱えたまま残りの人生を過ごすことになります。
ぎっくり腰を起こすということは、体のなかで問題が起きているという証拠ですから、いちど痛みが引いたからといって安心せずに、骨格の歪みを確認するようにしてください。
まとめ
この記事で解説したように、ぎっくり腰を起こすのは骨格の歪みによって、腰椎の機能が正常に働かなくなっているからです。
ぎっくり腰の激痛はあくまでも表面的な症状ですから、それを引き起こしている根本の原因である骨格の歪みを解消するようにしましょう。
表面的な症状にだけ対処して原因を放置しているのは、火事に例えると火災報知器の警報だけ止めて火を消していないようなものですから、いずれ大変なことになるのは目に見えています。
まさかそんな人はいないと思うかもしれませんが、世間でおこなわれている腰痛やぎっくり腰に対する処置は、構造としては火事の例えと同じです。