腕に力が入りにくくなって、コップやスマホを落とすことが増えていませんか?
腕の感覚が鈍くなったり、握力低下を感じるようになると、脳の疾患なのではないかと心配になるかもしれません。
実際に脳疾患が隠れていることもありますから、物を落とす回数が増えているのなら、まずは脳の検査を受けるのがよいでしょう。
しかし、脳の検査をしても異常が見られない場合は、胸郭出口症候群の症状であることが多く、こちらには骨格の歪みが関連しています。
胸郭出口症候群とは
胸郭出口とは斜角筋という首の筋肉や、鎖骨と第一肋骨の間、肋骨と小胸筋という筋肉の間にある空間のことです。
胸郭出口には腕神経叢という腕の神経や、鎖骨下動脈という脳を栄養する血管が通っています。
この胸郭出口という空間が何らかの原因で狭くなり、そのすき間を通過するさいに神経や血管が圧迫されるようになったものを胸郭出口症候群と呼びます。
神経は脳からの運動指令を末梢まで伝えたり、反対に末梢からの感覚を脳に伝えています。
その神経が圧迫されると情報伝達に問題が生じて、脳から末梢への神経伝達の効率が低下するので、物をつかむという指令が指先まで届きにくくなります。
そうすると、自分では力を入れているつもりでも、脳からの信号がきちんと伝わっていなくて力が入らなくなる。反対に、腕で神経が圧迫されているとその情報が脳に届けられて、だるさを自覚するようになります。
なお、胸郭出口症候群には牽引型と圧迫型という二つのタイプがあり、神経が刺激される原理が少し異なりますので、症状の出るタイミングもそれぞれ違います。
腕を下げると症状が出る牽引型
胸郭出口症候群の牽引型は、腕を下ろしているとだるさや力が入りにくくなるなどの症状が出るもので、なで肩の女性に多いとされています。
これはなで肩だと肩甲骨周りが下垂しやすく、それに合わせて腕が下方に引っ張られるため、首から腕にかけて走行している腕神経叢に牽引刺激が加わるからです。
そのため、重い鞄や荷物を持つ、長時間の家事や事務作業など、腕を下ろしている体勢が続くと、腕神経叢が引っ張られて発症することがあります。
腕を上げると症状が出る圧迫型
胸郭出口症候群の圧迫型は、先ほどの牽引型とは反対に腕を上げたさいに、腕のだるさや握力低下がみられます。
電車で吊革につかまる、洗濯物を干す、寝転がってスマホを見る、といった体勢を取ると症状が出てくることが多いでしょうか。
こちらは首にある斜角筋という筋肉や、小胸筋といって肋骨から肩甲骨に付着する筋肉によって、胸郭出口を通る神経や血管が圧迫されることによって症状が出ます。
原因が筋肉による神経の圧迫ですから、デスクワークで下を向いている時間が長い方や、腕を使う仕事やスポーツなどで、首や腕の筋肉に負担を掛けることが多い人に好発します。
頚椎が歪むと胸郭出口が狭くなる理由
このような胸郭出口症候群が発症する要因には、頚椎の歪みが影響していることが多いです。
これは単純に解剖学的な理由で、頚椎には胸郭出口を構成する前斜角筋や中斜角筋という筋肉が付着していたり、上肢を支配する腕神経叢が走行しているからです。
そこで頚椎が歪むと筋肉の緊張度合いが変わったり、神経が引っ張られたり圧迫されるようになるので、腕のだるさや握力低下といった症状が現れます。
なお、胸郭出口症候群の牽引型と圧迫型には、それぞれ発症しやすい歪み方があるので、簡単に解説していきます。
胸郭出口症候群には、腕を下ろしたときに発症する牽引型と、腕を上げたときに発症する圧迫型を併発した混合型というものがあり、どの体勢をとっていても症状が出ることがあります。
混合型の場合は、頚椎の歪みも複合していることが多いです。
牽引型に多い首の傾き
胸郭出口症候群の牽引型は、首が傾くように歪んでいると発症することが多いです。
通常、首を正面から見た場合は、骨がきれいに一列に並び、その上に真っ直ぐ頭が乗って、左右の肩の高さも揃っているのが正常な状態です。
しかし、下のレントゲンのように首が傾くように歪むと、肩の高さに左右差が生じてしまいます。
肩の高さが変わると、低くなった側では肩甲骨の位置も下がりますから、腕が下垂して下に引っ張る力が強くなります。
また、首が傾くと片側の腕までの距離が離れてしまいます。
首から腕までの距離が離れても神経の長さは変わりませんので、首から出ている腕神経叢が引っ張られるようになり、腕のだるさや握力の低下といった症状を呈するようになります。
圧迫型に多い弯曲の消失
胸郭出口症候群の圧迫型は、頚椎の弯曲がなくなっている方に多くみられます。
これは頚椎が歪むことで起始停止の距離が変化し、筋肉の緊張度合いにも影響するからです。
筋肉の付着部のことを起始停止といって、おおむね関節を跨いで異なる骨に付着しています。
胸郭出口を構成する前斜角筋・中斜角筋も例外ではなく、首の骨から第一鎖骨についていますので、弯曲がなくなると起始停止の距離が変わってしまいます。
そうすると、斜角筋群が引っ張られて緊張が強くなるとともに、斜角筋隙という腕神経叢が通るための空間が狭くなるため、神経が圧迫されて腕のだるさを感じるようになったり、握力が下がって力が入りにくくなります。
胸郭出口症候群の治療法
一般的な胸郭出口症候群の治療法は、症状の出る動作を避けるような日常生活指導や、運動療法などがおこなわれます。
しかし、それでは対症療法にしかなりませんから、家事や仕事などで首や腕に負担を掛けていると、症状も再発してしまうでしょう。
その場合は、頚椎の歪みを矯正して構造的な問題を解消すれば、腕神経叢の牽引刺激も改善しますし、胸郭出口の空間も回復しますので神経が圧迫されることもなくなります。
神経に掛かっていたストレスがなくなれば、そこから出ていた腕のだるさや握力低下といった症状も改善していくでしょう。
まとめ
腕に力が入りにくくなって物を落とす回数が増えたら、まずは病院で脳の検査をするべきでしょう。
しかし、脳の異常が見つからない場合は、頚椎の歪みが原因で腕の神経が引っ張られたり、圧迫されていることが多いです。
とくに首の痛みや肩こりは頚椎の歪みで出る典型的な症状ですから、ふだんからそのような症状で悩まされている方は、いちど骨格の歪みを確認するようにしてください。